青山通りを青山学院大学に添って入った並木道の途中。白い手すりの階段を上がった二階に田代さんのお店はある。
オープンして20年になるが今でも一日の仕事は素材の味見から始まるという。
「今回の蟹は小ぶりだけど新鮮で味がしっかりしているから、甲羅も身もミソも全部使ったよ。」
味を確かめ、素材をまるごと使い切って、存在感ある一品になった。
田代さんは福島県川俣町生まれ。福島県産食材の代表ともいえる川俣シャモの産地である。自然の中で放し飼いされ、適度な歯ごたえと鶏肉本来の旨みを持つことで料理人から注目されはじめている素材だ。
「川俣シャモはいつも使っているんだよ。育っているところも見ているし、何といっても味がいい。噛んだ時に広がる味の深さがね。」
川俣出身だから使っているわけではない、味を認めたから使っているのだ。
「食材選びの基準は、風味があって旨いことが一番。香りと味のバランスが良く、舌にのせた時に、5、6種類の風味が広がるものがいいね。」
多くの食材を生産者限定とし、その畑にまで行く田代さん。ほうれん草作り30年などという生産者と築き上げた年月が今の評価に繋がっている。
「なによりも土壌に合ったものを作ることが大事。土壌や土地に合っていないと基本的に美味しいものができない。」
と畑を知る田代さんは言う。
フレンチのシェフでありながら日本の食材を活かしたメニューで先駆的な田代さん。その目には、福島の土壌にあった農作物をもっと追及して作ってほしい、という思いも映っていた。